ふたつのクイ(by友岡)

最近、ちょっと後悔していることがありまして。


「人生にはふたつのクイがある、っていう話があるんだけど」
「何それ? クイって、出る杭(くい)は打たれるの杭?」
「違う違う。出る杭は打たれる、については、
出る杭は打たれるけど、出過ぎた杭は打たれない、
っていう、また別の話[*註]があるんだけど、それはさておいて、この話はregretの悔い、後悔の話なんだけど、で、ふたつっていうのは、
ひとつは、何かをしなかったことの悔い、もうひとつは、何かをしてしまったことの悔い。
分かりやすく、具体的に、えーと、例えば男女の話とかでいえば、好きなコがいて、で、そのコにコクるかコクらないかっていう話で、ひとつは、コクらなかったときに、あとで、あーあ、あのときコクっとけばよかったなあ、っていう、これが、何かをしなかったことのほうの悔い。
それから、もうひとつは、例えば、彼女とは飲み友達とかでとてもいい仲だったのに、コクっちゃったために、それからなんか気まずい感じになっちゃって……、みたいなときには、あのときコクったりしなければよかった、っていう、これが、何かをしてしまったことのほうの悔い」
「なるほど」
「で、ボクの場合は、何年か前、いや、もうずいぶん前に、大袈裟にいえば、人生の基本原則、みたいなものを決めちゃったのね。
決めちゃったほうが、しようか、やめとこうか、コクろうか、やめとこうか、っていう迷いがなくなって楽といえば楽になるわけで、で、何をどう決めたかというと、これからは
‘何かをしなかったことの悔いのない人生を送ろう’
って決めたのね」
「えーと、何かをしなかったこと、の悔い、がない、っていうことは、つまり、えーと」
「要するに、好きだったら、すぐにコクっちゃおう、ってことね。
で、この基本原則を決めてからはホントに迷いがなくて、そういう意味では楽になったっていうか。
結局、どっちにしたって悔いは残るわけだけど、どっちのほうがより後悔するかって考えて、で、何かをしなかったほうがより後悔するんじゃないかって思ったわけ」
「だから、次から次へといろんなコにコクっちゃうんだ」
「……」


最近、誰かにコクって後悔してる、ということではありません。


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*註 友岡『なぜ「会計」本が売れているのか? 「会計」本の正しい読み方』(税務経理協会)12〜14頁。