続・読書(by友岡)

昨日の記事の続きですが、
『人間の絆』では、著者のモーム自身がモデルとされる主人公のフィリップが、一時期、ロンドンの会計士事務所で年季奉公をしており、その辺りの記述からは、19世紀の、すなわち最初期の会計士業の様子を窺い知ることができます。


「(或る)会計士事務所にたまたま見習いの空きがあり、フィリップを300ポンドの費用で面倒見てやってもよいと言っている」(岩波文庫、上巻、p.274)


「近代商業の成長で会社の数が増えたため、依頼人の財政状態を整理するのに、従来のやり方では不充分になり、新しく会計士の事務所が出来……次第に格もあれば、金儲けにもなり、重要な職業となってきているというのだ」(p.274)


「紳士にふさわしい職業かと問い合わせたところ、国家免許になって以来、パブリック・スクール出身者や大学出の者がどんどんその道に進んでいる、ということだった」(p.274)


「(或る古参の同僚は)フィリップが年季契約の見習いだというので反感を抱いていた。フィリップは300ギニー出して5年間見習いをする資力がある」(p.326)


しかし、
「この10カ月間、ぼくはいやでたまらなかったんですよ。仕事も事務所もロンドンも。ここで過ごすくらいなら、横断歩道の掃除でもしたほうがましです」(pp.336-337)
という主人公フィリップは途中で年季奉公をやめてしまっています。


なお、19世紀イギリスの会計士業の詳細については友岡著『会計士の誕生』をご覧下さい。


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今日は学外の某委員会の会議があるため、横浜に行かなくてはなりません。